エンパワーメントとは「眠っている力を呼び覚ます」こと

コラム

エンパワーメントとは「眠っている力を呼び覚ます」こと

 エンパワーメントとは、使い方、高める方法に関して解説 エンパワーメントとは人や組織に「眠っている力を呼び覚ます」こと

By 岩田洋治

エンパワーメントとは「眠っている力を呼び覚ます」こと

 

エンパワーメントとは

 

最近いろんなところで注目され始めた「エンパワーメント」という言葉。これからの時代に必要な考え方だとされてます。しかし、その言葉の意味を調べてみても、いろんな表現があって、結局のところどういうことなのかよく分からないという声も。

 

そもそもエンパワーメントって何?それが個人や組織にとってなぜ大切なのか?このコラムではそんな疑問にお答えします。

 

 

エンパワーメントを簡単にまとめるとこうです

 

 

 

いくつかの意味合いを持つエンパワーメントですが、それをあえて一言にまとめると、個人や組織(地域社会)の中に「眠っている力を呼び覚ます」ことと言えるでしょう。

 

よくエンパワーメントとは権限委譲のことであると説明されていますが、権限委譲はエンパワーメントのための一手段であって、エンパワーメントそのものではありません。

 

確かに、中世においては、エンパワーメントは権威的存在からの権限付与を意味していました。しかし、時代の変遷を経て、エンパワーメントは「パワーを与える」というかつての意味から、「眠っている力を呼び覚ます」という意味へ変わってきました。

 

言葉には、その時代を生きる人たちの思いが反映されます。現代におけるこのような言葉の使われ方の背後には、「人は本来、力ある存在だ」との思いが底流しているのでしょう。

 

 

二つの前提

 

エンパワーメントの前提となっているのは次の2点です。

 

 

 

つまり、力が発揮できていないのは、力が無いことが原因ではなく、力はあるんだけれどそれが阻害されているからだとの人間理解が基本となっています。

 

その阻害要因は、個人を取り巻く社会や環境の中に存在することもあれば、個人の内面に存在することもあります。ただ、個人の力が発揮されないような社会や環境を作ったのも人であることを考えるならば、人の内面にある阻害要因に向かい合っていくことがエンパワーメントの本質であると言えます。

 

今私たちは未曾有とも言える変革の中にあります。それは今後10年で、よりはっきりと実感されるようになるでしょう。これまでにない変化に適応して、なおかつ豊かで幸せな社会を持続していくには、私たちはどのように変わっていかなければならないのでしょうか?

 

そのためには個人や組織の中に眠っている力を呼び覚まし、その本来の力を発揮していかなければならないと、多くの人が感じ始めているのでしょう。それが、今エンパワーメントが注目されている理由です。 

 

 

 

 

 

各分野におけるエンパワーメントの意味


 

エンパワーメントという言葉は、古くは中世において「公的な権威や法律的な権限を与えること」の意味で用いられました。上から下へ一方的に権威や権限が付与される、そんな封建的なイメージがありますね。今でもエンパワーメントの訳語としてまず権限委譲が出てくるのは、このような歴史背景があるからなのでしょう。

 

 

エンパワーメントの発祥

 

 

その意味合いが変化したのは、1960年代の公民権運動のあたりからです。社会的に弱い立場に置かれている人たちが、本来の力を取り戻していくための社会変革を象徴する言葉として使われるようになりました。根底にある考えは、本来力を持っている人たちが、差別や搾取によってその力を発揮できていないというものです。一人ひとりが本来の力を取り戻すには、つまりエンパワーしていくためには、社会的な阻害要因を取り除く必要があるとの考えです。

 

 

介護、看護、福祉におけるエンパワーメント 

 

 

また、1986年に入ってWHOが提唱したへルスプロモーションがきっかけとなって、医療や福祉の分野で、エンパワーメントについて新しい考え方が生まれてきました。

 

看護学大辞典には、エンパワーメントとは『人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにするプロセス』と書かれています。例えば、本人が自らの健康のために生活習慣を変えようと思わない限りは、いくら周りからの支援があっても健康な状態は実現していきません。つまり、本来の健康(力)の発現を阻害している要因は、本人を取り巻く社会の中だけでなく、本人自身の中にもあるとの見方です。そこをサポートしていくことが、看護におけるエンパワーメントだとの考えです。

 

介護、看護、福祉において、サービスを受ける側がどのように主体性を発揮していくのかは難しい問題です。相手に何かをするという行為が、かえって相手の主体性を奪っていることになっていないか。相手が主体的になるには、具体的に何ができるのか。

 

これらの問いに正面から向き合い、答えようとすると、まず自分自身の、そして相手への深い人間理解が必要となってくるでしょう。それこそがエンパワーメントの本質的課題なのです。

 

 

教育におけるエンパワーメント

 

【参照サイト】文部科学省 学習指導要領「生きる力」

 

文部科学省が告示した2020年からの学習指導要領には、生徒の「生きる力」を育むという方針が明確に記されています。生きる力とは変化の激しいこれからの社会を生きる力のことで、

 

これからの社会が,どんなに変化して予測困難な時代になっても,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,判断して行動し,それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。自分の道を切り拓いていく力を養ってほしい

 

との願いが込められています。

 

テスト勉強のためだけに知識を詰め込むのではなく、生徒が本来持っている知りたいという力を引き出し、その先に、生きる力を育んでいく。これはまさに、エンパワーメントのテーマそのものと言えます。 

 

 

 

組織におけるエンパワーメント


 

企業においても、エンパワーメントとはスタッフやチームの中に「眠っている力を呼び覚ます」ことだと考えていいでしょう。では、実際の現場では、どのようにエンパワーメントを実現していけばいいのでしょうか。そのためには、次の二つのアプローチを考える必要があります。

 

 

 

外的環境を整備する

 

一人ひとりが力を発揮できる社内環境を整えます。例えばセルフマネジメントを醸成するような組織構造や、意思決定の仕組み、また情報の共有化、ITツールの導入など様々なことが考えられます。何をどのように変えればいいのかは、現場スタッフのアイデアから生まれてくることも少なくありません。ただ、そのような声が上がってくるためにはチーム内に心理的安全性があることが大事で、外的環境を整える上でも、チームメンバー一人一人の内的課題が関わってきます。

 

②  一人ひとりが内的課題に向き合えるようサポートする

 

変化への抵抗や、無意識的依存など、一人ひとりが自らの内的課題(伸びしろ)に向き合えるようサポートします。内的課題は本人自らがそれに気づき、そこにどんな可能性があるかを認知できることが肝要です。手法としては、例えば 1on1 やピアサポート(仲間同士のサポート)などが考えられます。ただ、なかなか自分自身とどのように向き合えばいいのかはわからないものです。自分の弱さと向き合うことに、心理的な抵抗感も出てくるでしょう。この領域に取り組んでいくには、外部の専門家の力を借りることもいいでしょう。 

 

それでは、具体例を一つ挙げて、もう少し詳しく考えていきましょう。

 

 

エンパワーメントで組織が飛躍した実例

 

【参照サイト】Leadership on a Submarine

 

ここにご紹介するのは、組織のエンパワーメントに成功した事例です。

 

ある原子力潜水艦の艦長が、チームの変革に取り組みます。それまでは艦長に命令されたことを、忠実に、正確に、迅速にこなすことだけをトレーニングされてきた乗組員たち。しかし、それでは不測の事態に対応できないだけではなく、艦長が全ての部署に指示命令を出すのは不可能で、忙しくて手がいっぱいな部署がある一方、他の部署は仕事がなく暇にしているなど、チームとしての問題を抱えていました。

 

ある日、このままではいけないと意を決した艦長は、その日の内にこれまでの方針を変えることを乗組員に伝えます。

 

  • 艦長からの指示命令は、一部の事項を除いて一切無くする
  • その代わりに艦長の意図を伝え、今何が問われているのか、どうすればいいと思うのかを乗組員に尋ねるようにする
  • そのことで乗組員一人ひとりが自ら考えるようになる
  • しばらくすると、今度は乗組員の方からこうしたいと声が上がり始める
  • その時に、その行動の意味や、注意すべきことは何かを尋ねる
  • 情報のある場所(現場)に権限を持たせる
  • そうすることで、艦長が全てを命令していた時よりも、判断が圧倒的に早くて正確になる
  • 個々が独自に判断していたら方向性がバラバラにならないかと心配に思うかもしれないが、そうはならない
  • むしろ全ての乗組員が、艦長ならばどう考えるかをまず自らに問いそこから自分で判断するようになり、チーム間の助け合いも起こってくる
  • このような組織変容が完全に定着するには数年間を要したが、その効果は初日から感じることができた
  • 毎年行われる海軍の査定では、過去に類を見ない高評価を得た
  • 改めて振り返ってみると、このような組織変容をこれまで阻害してきたものは、全てを把握しておきたい、全てをコントロールしたいという自分自身のエゴであったことがわかる

 

さて、ここにあげた項目のうち、どれが外的環境の整備にあたり、どれが内的課題に向き合うことなのかを考えてみてください。エンパワーメントを現場で実践する上でのヒントが掴めると思います。

 

 

社員がエンパワーメントを高めるメリット 

 

 

エンパワーメントは何よりも自分自身のためのものです。自らがエンパワーすることで、仕事だけではなく、その方の人生が動き始めることを私たちは何度も目撃してきました。仕事を通して得たエンパワーメントは、家族関係にも、友人関係にも、自分自身の生きがいにも良い影響を与えます。また、人生100年時代と言われる中で、その長い期間を豊かで幸せに生きる力にもなります。

 

 

管理職がエンパワーメントを高めるメリット

 

 

管理職は現場と経営層をつなぐ重要な要として、とてもクリエイティブな役割を担っています。実動時間も増える傾向にあります。ですから、スタッフやチームがエンパワーして自ら考え、自ら動いてくれることで生まれる時間的余裕は大きなメリットです。チームの力に支えられて、自分のやるべき仕事に集中することができるようになります。

 

 

経営者がエンパワーメントを高めるメリット 

 

 

経営者にとって、エンパワーメントが持つ最も大きな意味は、何よりもエンパワーしたリーダーが育つことです。エンパワーしたリーダーとは、周りをエンパワーする力を持ったリーダー、つまり、リーダーを育てることができるリーダーです。

 

チーム内に良き空気を醸成し、メンバーがイキイキと力を発揮することで、いろんな発想が生まれるようになり、発想が行動に変わっていき、お客様の満足につながり、業績につながっていきます。長期的にみた場合、企業の力は、組織の中に何人このようなリーダーがいるかによって決まります。

 

【参照サイト】リーダーシップを最大限に発揮する為にエンパワーメントは必須!?

 

 

 

エンパワーメントの考え方


 

ビジネス現場におけるエンパワーメントは、よく権限委譲のことだと説明されています。しかし、そもそもそれは目的ではありません。エンパワーメントとは、個人や組織の中に「眠っている力が呼び覚まされる」ことです。その目的を見失い、何をすればいいのかということだけに始終すると、あまり良い結果はもたらされません。

 

エンパワーメントの考え方を履き違えると失敗するケースも 

 

 

エンパワーメントの考え方を履き違えてしまうと、組織の変容が進まないどころか、真逆の方向に向かうことさえあります。上から降ってくる ”号令” に「またですか」と現場スタッフが反応し、経営層と現場の分断が深刻化していく。このような過ちは、経営層が自らの内的課題を十分に認識できていないことから起こります。

 

そのよい例が『社員の力で最高のチームをつくる』の中でわかりやすく物語られています。この本の主人公である経営者のマイケルは、なんとか組織を変革させようとして自分がこれまで取り組んできたことを次のように回想します。

 

【参考】社員の力で最高のチームをつくる〈新版〉1分間エンパワーメント

 

そう考えた時、「エンパワーメント」という言葉が浮かんだ。マイケルにはこれが必要だとアドバイスしてくれた人もいた。しかし、それならマイケルはすでにさんざん試み、ほとんど成果が上がらないという結果も見ていた。

6ヶ月前、マイケルは会社の組織構造を減らした。そして、社員はだれでも自分で意思決定を行なってよいと通達し、よりよい顧客対応、コスト管理、売り上げ増大、イノベーション体質の維持を目指すよう奨励した。経営陣には、このルール変更の効果をフォローし続けるよう指示を出した。

マイケルは考えにふけった。あれから6ヶ月経ったが、何も変化していないように思える。

 

マイケルは社員に”権限委譲”さえすれば、自然に変化が起こると考えていました。それがエンパワーメントだと思っていたのです。マイケルにエンパワーメントが何であるかを教えてくれたサンディは言います。

 

自分が変わらなければ世界は変わらないということに気づけば、世界は半分変わったも同然です。

(中略)

真のエンパワーメントは人にパワーを与えることではありません。与えてもらわなくても、人は元々たっぷりのパワー ──知識、経験、意欲── をもっていて、立派に自分の仕事ができるのです。エンパワーメントとは、『社員がもっているパワーを解き放ち、それを会社の課題や成果を達成するために発揮させること』です。

 

マイケルはエンパワーメントの学びを深めながら、何とか社員をエンパワーしようとしていた自分に気づきました。つまりそれは、形を変えたコントロールだったのです。自分自身の課題を意識できない限り組織は良くならないことにマイケルは思い至りました。

 

そこから真のエンパワーメントが始まるのです。

 

 

 

エンパワーメントを高めるためには、引き出すためには


 

企業導入の成功事例

 

【参照サイト】田中健太氏に聞く 企業研修受講者受講者インタビュー どう変容したのか

 

私たちの事例から、大津市にある株式会社ニューアース様をご紹介いたします。ニューアース様は老人介護施設を経営されており、デイサービス本堅田と、デイサービス天神山の2拠点を運営されています。

 

行動科学研究所としては、社内でのエンパワーメント研修の他に、田中健太社長の個人セッション、またリーダーシップラボなどを通して、ニューアース様が掲げられている「エンパワーメントケア」の実現に向けて継続支援を行なっています。

 

私たちのサービスの最大の特徴は、利用者の方々の活動量の多さかもしれません。その「活動」には強制はありません。私たちスタッフや他の利用者の方々が、何かを生き生きと心から楽しんで行っている姿を見ることで、自然と心が躍り、「自分もやってみたい」と自発的に行動されることが大切だと考えているからです

ただ「与えられる」プログラムと、「自分がやりたいから選んでする」プログラムとは、心や身体に与える影響は違ってくるでしょう。ワクワクする気持ちに動かされて何かをやってみる。それは、「生きる」本当の意味でもあるのではないかと思います。

 

【参照サイト】株式会社ニューアース様ホームページ

 

エンパワーメントケアを実現するためには、まずスタッフ一人ひとりがエンパワーすることが大切になります。これまでの取り組みが、ニューアース様に次のような変化をもたらせました。

 

 

 

エンパワーメント実現のファーストステップ

 

それは自分が思っていることを言葉にして相手に伝えること。また、相手の言葉を受け止めること。これができるようになるには、一人ひとりが自分の内面を見つめる力をつける必要があります。

 

なぜなら、そもそも自分が本当は何を思っているのかそれほど明確ではありませんし、たとえ思っていることがあっても、それを言葉にするには勇気が必要ですし、また、相手と考えが異なる時に、私たちはすぐ感情的になるからです。

 

「自分の内面を見つめるってどういうこと?」

 

最初はいろんな戸惑いもありますが、研修を通して段々とその意味がわかってきます。是非受講者の生の声をお聞きください。

 

 

 

エンパワーメントを引き出す&高めるプログラム

 

 

エンパワーメントとは、個人や組織の中に「眠っている力を呼び覚ます」こと。それは、外側から与えられるものではなく、内側から起こってくるものです。

 

もちろん、エンパワーメントが起こってくるような環境を整えることも大切です。私たちはそれを「呼び水」と表現しています。エンパワーメントを促すことができるからです。それでも、最後に内側から水を汲み上げてくるのは、やはり私たち一人ひとりの力です。

 

エンパワーメントの実現には、まずはそれを阻害しているものに気づくことから始まります。阻害要因は、否定したり排除すべき対象ではありません。そこにこそ力が眠っており、その部分こそが伸びしろだからです。

 

行動科学研究所では、個人や組織のエンパワーメントをサポートするための9つのプログラムを用意しております。エンパワーメントに興味を持ち、取り組んでみたいと思われる方は、次の3つのプログラムのいずれかから始められてはいかがでしょうか。

 

 

1. エンパワーメントベーシックコース

 

まずはエンパワーメントを学んでみたいという方は、オンライン開催されているこの講座がいいでしょう。

 

エンパワーメントベーシックコース

 

 

2. リーダーシップラボ

 

いい仕事がしたい。仕事を通してエンパワーしたい。エンパワーしたチームを実現したいという方には、リーダーシップラボがおすすめです。

 

リーダーシップラボ

 

 

3. PEP個人セッション

 

自分自身の力を発揮して、もっとクリエイティブに生きたいのであれば、時間をかけて深層対話に取り組んでいく個人セッションがおすすめです。

 

PEP個人セッション

 

岩田洋治

この記事を書いたのは:岩田洋治

1964年生まれ
1987年 北海道大学工学部卒
1989年 同大学修士課程修了
      同年外資系メーカーに入社
      国内および海外にて研究開発者として勤務
1998年 同社を退社、行動科学研究所に加わる
2019年 行動科学研究所所長に就任

PEP個人セッション、リーダーシップラボ、PEP企業研修などを通して、個人や組織のエンパワーメントをサポート。

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