ティッシュの山の向こうで、彼女のエネルギーが変わった 状況が変わらなくても、エネルギーは変わる
By 岩田洋治
-
エンパワーメント
状況は何も変わっていない。
それでも、人は自分の中心に戻ることで、もう一度動き出せることがあります。
先日のセッションで、私はその瞬間に立ち会いました。
話し始めると、それまで押さえていた感情が涙となってあふれ、それを拭うティッシュの山が、目の前でみるみる大きくなっていきました。
「お店のリニューアルオープンに向けて、最近はどんな感じですか?」
そんな問いかけとともに、セッションが始まってすぐのことでした。
いつもは、人を惹きつける笑顔で「愛のあふれるお店にしたい」とビジョンを語る20代の女性店長。しかし、この日の様子はいつもと違っていました。
最近、体調を崩してしまったこともあり、オープンに向けて、まだできていないことがたくさん残っている。そのことに、ずっとプレッシャーを感じ続けていたのでしょう。
体調を崩してしまった自分に対しても、「気持ちが弱いからこうなってしまうのだ」と、自分を責めてしまうと話されました。
さらに、スタッフの新規採用では100名を超える応募があり、その面接を一人で担ってこられたそうです。中には、連絡もなく面接に来ない人もいれば、「その思いを、ぜひ一緒に実現したいです!」と固い握手を交わしたにもかかわらず、その後辞退する人もいる。
そうした一つひとつの出来事に、自分が小さく傷ついていたことにも、話しながら気づいていかれました。
そんな話が続く中で、ふと、「あっ、いま何かが変わった」と思える瞬間がありました。
変化のきっかけは、しばらくの沈黙のあとに、彼女の口から出てきた言葉でした。
「なんだか、やらなくてはいけないことと、できていないことばかりが気になっていて、周りで支えてくれているスタッフへの感謝を忘れていました」
「神様への感謝も忘れていました」
そのあと、自分を振り返るようにうつむいたまま、またしばらく沈黙が続きました。
見ていると、呼吸がだんだんゆっくりと深くなっていくのが感じられました。
一息吸って顔を上げ、数回ゆっくりとうなずいたあとに語られたその声には、もう力が宿っていました。
「自分の中心に戻ってこれたように思います」
このようなエンパワーメントが起こったとき、私は必ずお伝えするようにしています。
「状況は何も変わっていないけれど、自分のエネルギーはいま、はっきりと変わりましたね。いまこの状態を感じながら、何かできそうなことはありますか?」
私たちは無意識のうちに、自分のエネルギーは外側の世界につながっていると思い込んでいます。
だから、外側の世界がうまくいっているときには、自分もエネルギーの高い状態でいられるし、外側の世界がうまくいかないときには、自分のエネルギーも低くなってしまう。
でも、本当にそうなのでしょうか。もしそれが本当なら、彼女のエネルギーはなぜ変わったのでしょうか。
私たちのエネルギーは、内側からあふれ出てくるものによって形づくられているからです。
震災の支援に行った方が、被災者の方から逆に「頑張ってくださいね」と励まされた、という話があります。その話を聞いたある方は、支援者に対して「それは良いことをされましたね」と語ったそうです。なぜなら、人は励まされるだけでは元気にならないからです。自分が励ます側になることで、エネルギーが立ち上がってくることがあるのです。
自分が落ち込んだときには、その状態のままであれこれ思い悩むよりも、まずは自分を整え、エネルギーを取り戻すところから始める。そんなことが、大切なのかもしれません。
それがいつもできるとは限りません。けれど、少なくとも、その方向に出口があると知っているだけでも、希望になるのではないでしょうか。
自分の中心に戻ることは、前に進むための最初の一歩なのだと思います。